| 埼玉県のミネカエデ類について(2025年10月4日更新) | |
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埼玉県におけるミネカエデ類については、埼玉県自然の博物館研究報告 「埼玉県内にはミネカエデ(Acer pellucidobracteatum)は分布しない」(Bull.Saitama Mus. Nat. Hist. [N.S.] No.16, 21-24. March 2022)にて発表 しています。 然しながら、その後発表された 「次世代DNAバーコードによる絶滅危惧植物の種同定技術の開発と分類学的改訂」(研究代表者:九州オープンユニバーシティ 矢原徹一氏)の研究結果により、 これまで埼玉県で便宜的に「和名:ナンゴクミネカエデ(Acer australe)」として分類してきたものは、1886年にC. J. Maximowicz氏が発表した「Acer tschonoskii Maxim.」と 遺伝子的に同じ仲間である可能性が高まりました。 そこでもう一度、これまでの問題を整理しておこうと思います。 まず、これまでに行った歴史調査を振り返ります。 1886年にC.J.Maximowicz氏が須川長之助氏採取の南部標本と田中芳男氏採取の日光標本&信濃標本をもとにAcer Tschonoskii Maxim.を発表しました。 1892年にC.S.Sargent氏が日本から持ち帰った種子を植物園で栽培、そしてその結果を1902年にAlfred Rehder氏が発表しました。 この段階ではC.S.Sargent氏が日本から持ち帰った個体はAcer tschosnokii Maxim.であると考えられていたようです。 その後、1906年にH.Leveille.氏が十勝岳標本をもとに「Acer pellucidobracteatum」を発表したものの、当時の研究者たちは発表を否定しました。 そのためしばらくの間はAcer pellucidobracteatumはAcer tschonoskii Maxim.のシノニムとして扱う研究者もいましたが、時とともにその学名は埋もれていきました。 1919年、中井孟之進氏が日光白根標本を基に「Acer tschonoskii Maxim. var. macrophyllum Nakai」を発表しましたが、Acer tschonoskii Maxim.と Acer tschonoskii Maxim. var. macrophyllum Nakaiの明確な区別点がはっきりしないまま、1931年には小泉秀雄氏が秋田駒ケ岳標本について「エゾミネカデ」、1932年には村松七郎氏が同じく秋田駒ケ岳標本を「ナガヘミネカエデ」と していました。 これらの記録を辿ると、いずれも標準的な個体と比較して葉(裂片)が大きかったり長かったり、命名はその個体の特徴を表したものだと思いますが、当時はまだ現代のような調査はできなかったと思うので仕方ないかなと思います。 混沌としたミネカエデ類の同定に一つの転機が訪れたのが1962年です。 桃谷好英氏は石鎚山標本を基に「Acer Tschonoskii MAXlM. var. australe MOMOTANI, var. nov.」を発表しました。 その後1966年、大井次三郎氏によりAcer Tschonoskii MAXlM. var. australe MOMOTANI, var. nov.は「Acer australe (Momotani) Ohwi et Momotani,」に付け替えられました。 この辺りの歴史を背景に、各時代の図鑑を比較しながらどのように同定されてきたのかをまとめると、概ね次のようになると思います。 Acer tschonoskii Maxim. → 図鑑掲載和名はミネカエデ、花弁は細く、柄は細くほぼ無毛、秋には黄葉する。 Acer australe → 図鑑掲載和名はナンゴクミネカエデ、花弁はへら状で幅があり、柄には赤褐色縮毛があり、秋には紅葉する。 埼玉県内のミネカエデ類は秋に紅葉すること、葉柄には赤褐色の縮毛があること、花弁の幅が広いこと等により、便宜的に「Acer australe」としていました。 しかしMIG-seq法による分子解析研究が発表された結果、Acer australeは紀伊半島、四国、九州にのみ生育していることが判ったことから、埼玉県のものはAcer australeではないことが判明しました。 では埼玉県のミネカエデ類は一体何なのか・・・ここが今回の問題です。 ~現状、学名と和名のねじれが起きてしまっているため、問題が落ち着くまでは学名を使おうと思いますが、過去記事等に記載している「ナンゴクミネカエデ」や「ミネカエデ」の和名については 次のような学名に脳内で置き換えていただけると幸いですw
また調査をしていると、ミネカエデ類も図鑑とは違って非常に多彩であることがわかります。 分子解析法により、こうした疑問の答えが繋がっていくことを願っています。
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