埼玉県のミネカエデ類について(2025年6月15日更新) |
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埼玉県内に自生しているといわれてきたカエデ類のうち、名前に「ミネカエデ」が付くものとしてミネカエデ(Acer tschonoskii)と ナンゴクミネカエデ(Acer australe)、オオバミネカエデ(Acer tschonoskii ver. macrophyllum)、 コミネカエデ(Acer micranthum)の4種類があると言われていました。 このうち、今までの山行で実際に自生を確認できたのは、コミネカエデ(山地帯上部)とナンゴクミネカエデ(亜高山帯)のみで、ミネカエデ とオオバミネカエデについては「幻のカエデ」と化していました。 また登山道に落ちている葉を見たときに、コミネカエデは葉の形や自生地に特徴があるので見分けるのは楽なほうですが、亜高山帯に自生する ナンゴクミネカエデの葉は個体差が大きく、さらにコミネカエデと自生地が接しているところでは両者の特徴を併せ持っているようなものも見られました。 となると・・・これは本当にナンゴクミネカエデ??と疑問が沸きますから、確定には「花」で確認する必要が出てきます。 ナンゴクミネカエデが埼玉県で開花するのは概ね5月末〜6月上旬です。 ミネカエデやオオバミネカエデといった県内の自生地が見つからなかったものは県外へ遠征しました。 詳細は省きますが、その後の調査で雌雄異株とされてきたナンゴクミネカエデにも雌雄同株があることが判明しました。 さらに樹齢が若いものは雄花優先で、樹齢が高かったり樹勢が衰えてきたものは雌花優先ということも判ってきました。 観察していたナンゴクミネカエデの中には、雄花→雌花と変化を遂げた後で枯死してしまったものもあります。 どのような過程で雄株から雌雄同株を経て雌株に性転換するのか、詳しいメカニズムはわかりませんが、単純な種ではないことだけはわかります。 そして特定の山域でみられるナンゴクミネカエデの中には葉の大きさが15cmに迫るような大きな個体差もみられたことから、 オオバミネカエデとされてきたものはナンゴクミネカエデの個体差の範囲内であろうと結論付けました。 ここまでの調査結果については、埼玉県自然の博物館研究報告「埼玉県内にはミネカエデ(Acer pellucidobracteatum)は 分布しない」(Bull.Saitama Mus. Nat. Hist. [N.S.] No.16, 21-24. March 2022)にて発表済みです。 これまでに国内の標本室が公開している標本や、各地で発行されている植物誌等の情報をもとに、おおよその自生地MAPを作成しました。 ![]() 尚、今のところは国内で発行されている図鑑等に準拠した和名を用いていますが、原著(タイプ標本を含む)をあたったところ、和名と学名が 合致していない問題が判明しています。 この問題については、また追ってご報告したいと思います。 ★2025年追記★ ここ最近のDNA解析による研究結果によって、東北地方のナンゴクミネカエデ似のものは(仮)トウゴクミネカエデと分類される可能性が出てきました。 確かに、秋田駒ケ岳や早池峰山ではミネカエデとは異なる、どちらかというと縮毛があったり花弁の幅が広かったりナンゴクの形質を持ったものがあったので、 それがトウゴクミネカエデとして新たに分類されることはより整理しやすいと思いました。 そしてその分布が長野県あたりまで及んでいるとのことから、関東地方にも分布している可能性が出てきました。 これまでのナンゴクがトウゴクに変更となる場合の気になる点は ・トウゴクミネカエデの雌雄について ・原著論文(Maximowicz)に関する須川長之助氏や田中芳男氏のタイプ標本(コマロフ研究所蔵)の結論 本来なら採取した標本をすべてDNA解析すれば早道なのですが、解析予算も技術もない状態なのでなんとも進めませんw 下にある3列の写真は左から、ミネカエデ、ナンゴクミネカエデ、オオバミネカエデ(とされていたもの)をそれぞれ観察した写真です。参考までに。 |
参考書等
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